大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成4年(行ケ)80号 判決

神奈川県横浜市保土ヶ谷区東川島町82番地

原告

株式会社仲田コーテイング

代表者代表取締役

松野竹己

訴訟代理人弁護士

高橋早百合

同弁理士

積田輝正

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

歌門恵

中村健三

田辺秀三

田中靖紘

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成2年審判第20892号事件について平成4年2月27日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年6月1日、名称を「樹脂コーテイング用加熱方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和59年第112707号)をしたところ、拒絶査定を受けたので、平成2年11月21日、審判を請求した。

特許庁は、この請求を平成2年審判第20892号として審理し、平成4年2月27日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をした。

2  本願発明の要旨

金属製品の樹脂コーテイングにおいて、製品の加熱空間2およびこの加熱空間2より下方に位置する製品搬入口3、製品搬出口4を有する加熱炉1の周囲を循環する搬送装置9から取り外した製品を、製品搬入口3から上昇させて加熱空間2内を移動しつつ所定の時間所定の温度で加熱し、加熱した製品を下降して製品搬出口4から搬出可能として成ることを特徴とする樹脂コーテイング用加熱方法(別紙図面1参照)。

3  審決の理由

審決の理由は別紙審決書写し記載のとおりである。

(引用例1及び2について、それぞれ、別紙図面2及び3を参照。)

4  取消事由

(1)  審決の理由中、本願発明の要旨、審決摘示の引用例1及び2の記載内容(但し、引用例2には、別紙審決書写し4頁9行ないし12行に摘示されているような技術的事項は記載されていない。)、本願発明と引用例1記載の発明とは製品の樹脂コーテイングである点で共通すること及び本願発明と引用例1記載の発明との相違点は認め、その余は争う。

(2)  取消事由

〈1〉 一致点の誤認による相違点の看過(取消事由1)

(a) 引用例1記載の発明には、本願発明の構成要件である「製品の加熱空間2の下方に製品の搬入口3及び製品の搬出口4を設け、搬入口3から上昇させて製品を加熱し、加熱した製品を下降させて製品搬出口4から取り出す」という構成は開示されていない。すなわち、引用例1記載の発明は、炉内の床面より低い位置にある出入り口の開口部方向に傾斜させたコンベアで塗装物を搬送するものである。コンベアは平面部に品物を載せて移送するため、水平面での移送を原則とし、傾斜した面でも移送は可能であるが、垂直移動は不可能である。したがって、引用例1記載のようなコンベアの場合、塗装物を垂直に搬送できない構造となっているから、垂直になっている構造は開示されていないと解すべきである。これに対して、本願発明は、加熱すべき製品及び加熱後の製品を昇降装置7、8で垂直に上昇及び下降させるものであるから、加熱空間2の垂直真下に製品の搬入口3や搬出口4が位置し、製品を垂直に搬送する構成となっているものであって、両者は、この点で相違する。そして、かかる位置関係の相違にともなって、引用例1記載の発明では、傾斜させたコンベアに沿って製品が移動するのに対し、本願発明では、吊り下げられた状態の製品が垂直に上昇、下降する点で相違することとなる。

(b) 本願発明は、上記のとおりの引用例1記載の発明と相違する構成を採択することによって、顕著な作用効果を有するものである。すなわち、本願発明では、製品を吊り下げた状態で垂直に上昇、下降させる構成にすることにより、全体の設置面積をできるだけ小さくし、製品の移動及び加熱を効果的に行なうことができるのである。また、本願発明では、加熱空間2の高温域によって外気の進入を防ぐ構造となっているため、引用例1記載の発明に比べて熱の損失が少ないという作用効果を有している。

これに対して、引用例1記載の発明では、塗装物をその平面部に載せて搬送することとなり、加熱空間内で多くの製品を加熱しようとする場合、製品の搬入量が多くなり、製品相互が接触し、傷つけないようにするためには、傾斜面における製品間隔を十分な大きさとする必要があり、出入り口の開口部と炉内との距離間隔が大きなものとなる。さらに、距離間隔が大きなものとなると、傾斜面は緩やかになり、傾斜面に沿って外気が炉内に入りやすく、また炉内の温度が外部に流出しやすくなる。そして、傾斜面が長くなると、加熱空間内で加熱された製品温度は加熱空間から出口の開口部への傾斜面で冷やされ、製品は所定の熱温度を保持することはできなくなり、樹脂の付着に不良を生じることになる。また、距離間隔を大きなものとするためには、装置全体が大型化せざるを得ず、多額の費用を要することとなるものである。

〈2〉 相違点に対する判断の誤り(取消事由2)

(a) 引用例2記載の技術内容の誤認

審決は、「引用例2には、搬送装置から製品を取り外して加熱空間内に移動し、搬出口から又別の搬送手段で搬送し炉の手前に運ぶ点が記載されている」と認定しているが、引用例2にはかかる技術的事項の記載はない。

(イ) 引用例2記載の発明において、塗装物は、供給コンベア(別紙図面3で9と表示される部材)を経てウィッケット(別紙図面3で3と表示される部材)付コンベア(別紙図面3で2と表示される部材)に移される。ウィッケット内にある塗装物は、炉体(別紙図面3で1と表示される部材)内で加熱され、加熱後、ウィッケットから抜き取りコンベア(別紙図面3で10と表示される部材)に引き出され、反転装置(別紙図面3で11と表示される部材)を介して搬送コンベア(別紙図面3で12と表示される部材)上に載せられる。塗装物は、ウィッケット付コンベアとは熱的に絶縁される通路(別紙図面3で13と表示される部材)を走行する搬送コンベアで炉頭へ搬送される間に冷却され、スタッカー(別紙図面3で14と表示される部材)に積み上げられる。

本願発明の搬送装置9と引用例2記載の発明における搬送コンベアとは、技術的目的や作用等が全く異なるものである。すなわち、引用例2記載の発明がウィッケット付コンベア以外に搬送コンベアを備えた構成としたのは、「加熱した塗装物を冷却するためにはコンベア及びウィッケットも一緒に冷却されてしまい、これが加熱帯域まで移動したとき莫大な熱量を吸収してしまう。冷却されたコンベア等が頻繁に加熱帯域中を出入りする結果、温度分布が不均一なものとなり、塗装物の乾燥程度が相違し、不良品を発生させる。コンベア、ウィッケット等が頻繁に加熱され、冷却されるので耐用年数が短い。」等の課題を解決するためである。したがって、引用例2記載の発明は、ウィッケット付コンベアは常に加熱帯域を走行し、搬送コンベアは常に冷却帯域を走行する構成を採択することにより、熱ロスが少なく、炉長も短くてすみ、コンベア等の寿命を延長できるという作用効果を有するものである。そして、かかる構成における搬送コンベアは、加熱すべき製品を直接炉内の乾燥用コンベアであるウィッケット付コンベアに移送する目的や機能を有していないものであって、加熱された塗装物を、冷却しつつ炉の出口に搬送し、かつ、炉の出口に積み重ねるものであり、これから加熱する製品をウィッケットを通してウィッケット付コンベアに移送する機能は有していない。

これに対して、本願発明の搬送装置9はハンガー11を介して所定の間隔で製品を吊り下げて移送し、製品が搬入口3に達すると、製品は取り外されて昇降装置7に移され、加熱空間2で加熱処理されるのであって、上記搬送コンベアとはその目的、作用効果を異にするものである。

(ロ) 引用例2記載の発明の供給コンベア(別紙図面3で9と表示される部材)は、塗装物をウィッケット付コンベアに移す機能を有しており、本願発明の昇降装置7に相当するものであって、搬送コンベアとは全く異なる構造のもので別体に形成されており、一体として加熱炉の周囲を循環するものではない。そして、供給コンベアは塗装物をウィッケットに挿入するためのものであって、塗装物を取り外して加熱空間へ移動させるものではない。

これに対して、本願発明の搬送装置9は、これから、加熱すべき製品を取り外して加熱炉内に送り、さらに、加熱された製品を取り出すために使用するものであり、加熱炉の周囲を循環している。したがって、引用例2記載の供給コンベアと本願発明のハンガー11を介して所定の間隔で製品を吊り下げて循環する搬送装置9とは異なるものである。

(ハ) 引用例2記載の抜き取りコンベア(別紙図面3で10と表示される部材)は、加熱後の製品を取り出す本願発明の昇降装置8に相当するものと解されるから、本願発明の搬送装置9に相当するものではない。

(ニ) このように、引用例2には、「搬送装置から製品を取り外して加熱空間内に移動し、搬出口からは又別の搬送手段で搬送し炉の手前に運ぶ」という技術的事項の記載はないから、かかる記載のあることを前提として、引用例1記載の搬送装置にかえて、引用例2に記載されている「加熱空間内に、搬送装置から製品を取り外して移動する」という技術を転用すれば、加熱空間には、搬送装置から取り外して移動するようにする本願発明の構成にすることは容易であるとした審決の判断は誤りである。

(b) 搬送装置炉加熱炉の周囲を循環するものである構成は引用例2に記載はなく、また、この点は設計的にできるものであるとした審決の判断も誤りである。

〈3〉 以上のとおり、本願発明は、引用例1、2記載のいずれの発明にも開示されていない構成を有し、その作用効果も引用例1、2記載の発明のいずれからも予測できないものであるから、審決が引用例1、2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるとした審決の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4の主張は争う。

2  審決の認定及び判断は正当であって、何ら取り消すべき違法はない。

(1)  取消事由1について

〈1〉 引用例1記載の発明も製品搬入口と製品搬出口は加熱空間より下方に位置しているものであって、「製品の加熱空間の下方に製品搬入口、製品搬出口を有し、搬入口から上昇させて製品を加熱し、加熱した製品を下降させて搬出口から取り出す」点が開示されている。

本願発明の要旨によれば、本願発明において、製品搬入口と製品搬出口とが加熱空間の垂直下方にあることはその構成要件とはなっていない。本願発明の製品を上昇させる方法、加熱空間を移動させる方法、下降させる方法は、原告主張の方法に限られるものではなく、また、下降させた製品は搬出可能とされているだけである。

〈2〉 引用例1には、「出入口の開口部高さが炉内の床面より低い位置にあると、加熱された炉内の熱空気は外気に比べて比重が小さいので重量が軽く炉中心部に集まるため、外部へ逃げ出すことができにくいので排出熱損失が非常に小さくなる」旨記載されており、本願発明とこの点において同一の効果を奏するものである。

(2)  取消事由2について

〈1〉 引用例2には、炉体に塗装物を運ぶ供給コンベア、炉体から塗装物を取り出す抜き取りコンベア、反転された塗装物を炉の入口に送る搬送コンベアが記載されているが、これらの複数のコンベアは炉体の外部における塗とはなっていないが、加熱空間2の外側を循環する搬送装置9から、加熱空間に出し入れする装置が必要であり、本願発明の実施例では、昇降装置7、案内レール5又は無端状チエンコンベア、昇降装置8がかかる装置に相当する。これに対して、引用例2記載の発明では、ウィッケット付コンベア、抜き取りコンベアがかかる装置に相当する。したがって、搬送装置とは別の移動装置を必要とする点で、引用例2の供給コンベア及び搬送コンベアと本願発明の搬送装置9とは類似しているものである。

さらに、本願発明の搬送装置9は加熱空間で製品を加熱している間はからのままで動いており、搬送装置としての作用をしていないものであるから、搬送装置として一体であることは必要ではない。引用例2記載の供給コンベアと搬送コンベアとは別体のものであるが、平面上に製品を載置して送るものとして同じ形のコンベアであり、加熱炉外のコンベアとして本願発明の搬送装置9が単に複数に分かれた形となったにすぎず、搬送装置を複数にするか一つにするかは適宜できることである。

〈2〉 以上のとおり、引用例2には、加熱空間内では他の移動手段によって加熱する点が開示されており、本願発装物の搬送を受け持ち、炉体内はその中だけをウィッケット付コンベアで移動させ加熱するものが記載されている。引用例2記載の発明が「ウィッケット付コンベア以外に搬送コンベア」を備えた構成としたのは、従来の欠点である(イ)加熱帯域を出たコンベアやウィッケットをそのまま加熱外域を通過させると、これが加熱帯域まで移動したとき莫大な熱量を吸収する、(ロ)冷却されたコンベア等が頻繁に加熱帯域中を出入りする結果として、加熱帯域中の温度分布が不均一になりやすい、(ハ)コンベア、ウィッケットが頻繁に加熱され冷却されるので耐用命数が短い、(ニ)コンベア等が加熱と冷却を交互に受ける結果、炉の前部の温度が不安定になりやすい等の課題を解決するために加熱空間内の製品の移動は他とは独立した手段でなされるようにするためである。

そして、本願発明と引用例2記載の発明とは、加熱空間内の製品の移動は他とは独立した手段でなされる点類似のものである。すなわち、本願発明において、取り外した製品を製品搬入口から上昇移動させる方法、加熱空間内を移動させる方法、下降させる方法、製品搬出口から搬出可能とする方法については、本願発明の構成要件明は、引用例1に記載された加熱方法において、加熱部分だけを引用例2に記載されたように搬送装置から取り外して処理するものであるから、本願発明は、この引用例1と2に記載されたことに基づいて容易に発明をすることができたものであり、その効果も、引用例1と2に記載されたものを寄せ集めたものにすぎない。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1(1)  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由)は、当事者間に争いはない。

(2)  審決の理由中、審決摘示の引用例1及び2の記載内容

(但し、別紙審決書写し4頁9行ないし12行に摘示されている技術的事項は除く。)、本願発明と引用例1記載の発明とは製品の樹脂コーテイングである点で共通すること及び本願発明と引用例1記載の発明との相違点は当事者間に争いがない。

2  本願発明の概要

成立に争いのない甲第2号証の3(昭和59年7月11日付手続補正書)によれば、本願発明は各種金属製品の表面を樹脂によりコーテイングするに際し、金属製品を効果的に加熱する方法に関するものであること、従来技術の加熱炉は、上面を密閉した金属製大型箱体を基本形状としており、加熱すべき金属製品の搬入口、加熱後の金属製品の搬出口等を観音開きの扉あるいは上昇又は下降可能な扉により形成し、加熱中は扉を密閉し、加熱炉内への製品の搬入、加熱炉からの製品の搬出に際しては扉を全面開放するようにし、しかも、搬入口及び搬出口が製品の加熱空間と同じ高さ位置にあったため、加熱炉内への製品の搬入、加熱炉からの製品の搬出に際して、加熱炉内の高熱が外部へ流出し、また同時に低温の外気が加熱炉内に流入して加熱炉内に急激な温度変化を生じさせ、一時的に加熱炉全体の温度が低下するため、加熱炉内を所定の温度まで上げて製品加熱を行なうためには必要以上の熱量と時間を要し、熱効率が極めて悪く不経済であり、また上記のような温度変化のために樹脂の付着状態が不良なものとなり、さらには、搬送装置自体も加熱炉内を通るため高熱により損傷が激しく、整備点検、部品交換等に費用がかかり不経済であるという問題点があったこと、本願発明は、かかる問題点の解決を課題として、特許請求の範囲記載の構成を採択したものであって、本願発明の方法によれば、製品の搬入口及び搬出口を加熱空間より下方に形成し、製品は加熱空間の上方を移動中に加熱可能とし、また、製品の搬送装置は加熱炉の周囲を循環するのみで加熱炉内を通ることなく、製品のみ加熱空間を通ることとなり、従来技術の問題点を解決することができるものであることが認められる。

3  取消事由の判断

(1)  取消事由1について

〈1〉  当事者間に争いがない審決摘示の引用例1の記載内容、成立に争いのない甲第3号証の2(石渡淳介他編、最新工業塗装技術、昭和52年8月5日株式会社幸書房発行、引用例1)及び前記本願発明の要旨によれば、引用例1に開示された乾燥方法と本願発明とは、いずれも製品の樹脂コーテイングに係る方法であって(この点については当事者間に争いがない。)、加熱空間とこの加熱空間の下方に位置する製品搬入口、製品搬出口を有する加熱炉へ製品を搬送して製品搬入口から上昇させて加熱空間内を移動しつつ所定の時間所定の温度で加熱し、加熱した製品を下降して製品搬出口から搬出して成る方法である点で一致することが認められる。

原告は、本願発明は、加熱すべき製品及び加熱後の製品が昇降装置7、8で垂直に上昇及び下降されるものであるから、加熱空間2の垂直真下に製品の搬入口3や搬出口4が位置し、吊り下げられた状態の製品が垂直に上昇、下降する点で、コンベアで塗装物を搬送するものである引用例1記載の発明と相違することとなるとして、本願発明の構成要件である「製品の加熱空間2の下方に製品の搬入口3及び製品の搬出口4を設け、搬入口3から上昇させて製品を加熱し、加熱した製品を下降させて製品搬出口4から取り出す」という構成は引用例1に開示されていないと主張する。

前記本願発明の要旨によれば、本願発明の加熱空間2と製品搬入口3、製品搬出口4との位置関係について「加熱空間2より下方に位置する製品搬入口3、製品搬出口4を有する」と規定されており、製品搬入口3、製品搬出口4が加熱空間2より低い位置関係にあることが本願発明の構成要件であると認められ、その位置関係が「加熱空間2の垂直真下に製品搬入口3、製品搬出口4が位置する」ことに限定されているとは認められない。また、本願発明の「搬入口3から上昇させて製品を加熱し、加熱した製品を下降させ」との構成要件が、製品の移動について、垂直方向に限定し、また、吊り下げられた状態でなされることに限定したものと認めることはできない。すなわち、「上昇」あるいは「下降」が垂直線に沿っての移動のみを意味するものではなく、高度差のある位置関係に移動させる場合は、傾斜面に沿った移動も「上昇」あるいは「下降」の意味に含まれると解すべきであるし、製品の上昇及び下降の方法についても吊り下げる方法のみではなく、コンベアによる搬送等、種々の方法が考えられるのであって、いずれも原告主張の方法に限定されるものではない。しかして、前記審決摘示の引用例1の記載内容及び前掲甲第3号証の2によれば、引用例1に記載されたコンベアによって塗装物が搬送される出入口の開口部高さが炉内の床面よりも低い位置にある乾燥炉が、「加熱空間より下方に位置する製品搬入口、製品搬出口を有する」構造を有する加熱炉に含まれることは明らかであり、上記乾燥炉において、コンベアにより入口の開口部から高い炉内の床面へ搬送し、炉内で加熱した後、炉内の床面から低い出口の開口部へ搬送することが、「搬入口から上昇させて製品を加熱し、加熱した製品を下降させて製品搬出口から取り出す」方法に含まれることは明らかであり、かつ、樹脂コーテイングの目的にかなう所定の加熱時間及び加熱温度で加熱されることが開示されていると解すべきことは当然のことであり、この点においても、本願発明の加熱方法と共通すると認められる。

したがって、本願発明と引用例1記載の発明との間に原告主張のような相違点は認められず、この点についての原告の主張は理由がない。

〈2〉  原告は、本願発明では、製品を吊り下げた状態で垂直に上昇、下降させる構成にすることによる格別の作用効果を有する旨主張する。

しかしながら、前記〈1〉で判示したとおり、本願発明における製品の移動は、これを吊り下げた状態で垂直に上昇、下降させることに限定されるものではなく、原告の主張は、その実施の一態様に関するものにすぎず、その主張に係る効果は、いずれも、本願発明の構成を採択した全ての場合に奏するものとは認められず、単なる一実施態様に固有の効果にすぎないと認められる。

前記審決摘示の引用例1の記載内容によれば、乾燥炉を出入口の開口部高さが炉内の床面よりも低い位置にある構造にすると、加熱された炉内の熱空気は外気にくらべて比重が小さいので重量が軽く炉中心部に集まるため、外部へ逃げ出すことができにくいので排出熱損失が非常に小さくなる効果を奏することが引用例1に開示されていると認められるところ、前記2判示のとおり、本願発明は、従来技術の加熱炉の搬入口及び搬出口が製品の加熱空間と同じ高さの位置にあるため、加熱炉内への製品の搬入、加熱炉からの製品の搬出に際して、加熱炉内の高熱が外部へ流出し、また同時に低温の外気が加熱炉内に流入するという問題点の解決を課題として、製品の搬入口及び搬出口を加熱空間より下方に形成し、製品は加熱空間の上方を移動中に加熱可能とする構成を採択したものであるから、両方法における出入口の開口部高さが炉内の床面よりも低い位置にある構造により予測される効果は同じであることが認められ、本願発明のかかる構成による作用効果は、引用例1の記載から予測できるものであることは明らかである。

また、原告が主張する加熱空間2の高温域によって外気の進入を防ぐ構造となっているため、熱の損失が少ないという作用効果は、上記の引用例1に開示された「加熱された炉内の熱空気は外気にくらべて比重が小さいので重量が軽く炉中心部に集まるため、外部へ逃げ出すことができにくい」構造による効果と同じであって、本願発明と引用例1記載の発明との構成の違いによる効果とは認められず、本願発明の格別の効果とは認められない。

したがって、取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

〈1〉  引用例2記載の技術内容について

(a) 成立に争いのない甲第3号証の3(特開昭56-97574号公報、引用例2)によれば、引用例2には、「今日一般に使用されている塗装物乾燥炉は、加熱帯域と冷却帯域とを有し、ウィッケット付コンベヤ上に縦方向に並列された板状の塗装物や印刷物(以下単に「塗装物」と呼ぶ)が、上の両帯域を通過して炉の出口側に積み重ねらるようになっている。しかしこの方式は以下の欠点をもっている。」(1頁右下欄10行ないし16行)、「コンベヤ及びウィッケットは共に熱の良導体から作られているので、塗装物が冷却されるにつれコンベヤ及びウィッケットも一緒に冷却されてしまい、これが加熱帯域まで移動したとき莫大な熱量を吸収する。」(1頁右下欄下から2行ないし2頁左上欄4行)、「冷却されたコンベヤ等が頻繁に加熱帯域中を出入りする結果として、同帯域中の温度分布が不均一となり易い。」(2頁左上欄10行ないし12行)、「コンベヤ、ウィッケット等が頻繁に加熱され、冷却され、絶え間なく膨張と収縮を反復するので、装置の耐用命数が短い」(2頁左上欄14行ないし16行)、「以上のように公知の塗装物乾燥炉には大小種々の欠点があるが、その原因は、結局、(i)炉が冷却部を併せ含むこと…に帰着する。本発明は比較的簡単な構成によりこの問題を抜本的に解決しようとするものである」(2頁左下欄7行ないし12行)旨の記載があることが認められ、上記記載及び当事者間に争いのない審決摘示の引用例2の記載内容によれば、引用例2に記載された乾燥炉は、冷却帯域を炉外に配置し、炉内のウィッケット付コンベアとは別に炉外に塗装物冷却用の搬送コンベアを設けたほか、炉の入口まで塗装物を搬入するための供給コンベアを炉外に設け、塗装物は加熱及び冷却に際して加熱炉外の搬送装置と加熱炉内の搬送装置との間で移し換えるようにして、加熱帯域と冷却帯域を同一の搬送装置で搬送する従来の技術が有する欠点を解消するものであることが認められる。

これに対して、前記2において判示したところ及び前記本願発明の要旨によれば、本願発明は、従来技術では加熱炉内外に延びる同一の搬送装置で製品を搬送するため、搬送装置自体も加熱炉内を通ることによって、高熱により損傷が激しいという問題点の解決を課題として、加熱炉内外の製品搬送装置を別々のもので構成し、製品は加熱及び冷却に際して加熱炉外の搬送装置と加熱炉内の搬送装置との間で移し換えるようにする構成を採択したものであることが認められる。

上記事実によれば、本願発明と引用例2に記載された発明は、ともに製品(塗装物)を別々の搬送装置により加熱帯域とそれ以外の帯域を搬送し、製品(塗装物)を両搬送装置の間で移し換えるようにすることにより、両帯域を同一の搬送装置で搬送する場合に生じる欠点を解消することを目的とするものであるから、両発明において、炉内外に搬送装置を設ける技術的意義は異なるところはなく、両発明の課題は共通しているものと認められる。

(b) そこで、両発明における搬送装置について、具体的に検討する。前記本願発明の要旨によれば、本願発明の搬送装置9は加熱炉1の周囲を循環する構成であり、前掲甲第2号証の3によれば、本願発明の搬送装置9の機能は、製品を加熱炉の搬入口に面した位置に運ぶこと(6頁下から4行ないし3行)、及び加熱炉から搬出された製品を搬送しながら冷却乾燥させること(9頁3行ないし4行)にあるものであることが認められる。

これに対し、前記審決摘示の引用例2の記載内容及び前掲甲第3号証の3によれば、引用例2記載の発明においては、供給コンベア(別紙図面3において、9と表示されている部材)は炉外にあって、炉内のウィッケット(別紙図面3において、3と表示されている部材)付コンベア(別紙図面3において、2と表示されている部材)へ塗装物を搬送する装置であり、搬送コンベア(別紙図面3において、12と表示されている部材)は、炉内で加熱され炉の出口で抜き取りコンベア(別紙図面3において、10と表示されている部材)によってウィッケットから引き出され、反転装置(別紙図面3において、11と表示されている部材)を通過する間に反転された塗装物を載せ、炉と熱的に絶縁された搬送通路(別紙図面3において、13と表示されている部材)を走って、塗装物を冷却させながら、炉頭に戻り、製品をスタッカー(別紙図面3において、14と表示されている部材)に積み上げる(3頁右下欄9行ないし4頁左上欄1行)装置であると認められる。

したがって、引用例2記載の発明において、本願発明の搬送装置9の持つ上記二つの機能のうち、製品を加熱炉の搬入口に面した位置に運ぶ機能は供給コンベアが果たし、加熱炉から搬出された製品を搬送しながら冷却乾燥させる機能は搬送コンベアが果たしているものと認められるから、引用例2記載の供給コンベア及び搬送コンベアは本願発明の搬送装置9に相当するものということができる。(このように、引用例2記載の供給コンベア及び搬送コンベアは別々の装置であるのに対し、本願発明の搬送装置9は加熱炉の周囲を循環し、前記二つの機能を備えた一体の装置である点で異なるが、本願発明がこのような搬送装置の構成を採択したことについて格別の技術的意義を認めがたいことは後記〈2〉において述べるとおりである。)。

(c) ところで、前記本願発明の要旨によれば、本願発明では、「搬送装置9から取り外した製品を、製品搬入口3から上昇させて加熱空間2内を移動」させる構成、すなわち、製品を搬送装置9から取り外したうえ、加熱空間2を有する加熱炉1に製品を搬入する構成を採択していることが認められるところ、この「取り外し」の、技術的意義は、製品の加熱炉への搬送装置と加熱炉内の搬送装置とは別であることから、製品を前者の搬送装置から後者の搬送装置に移し換えるための離脱を意味する点にあるものと解すべきである。そして、その具体的手段としては、人力又は何らかの機械的方法により、搬送装置9からその製品を離脱させることを意味するものであることは、技術的見地から明らかであり、現に、前掲甲第2号証の3には、その実施例について搬送装置9から加熱炉1へ出入り可能に通じる昇降装置7への製品の移動に関する手段として、作業者の手作業あるいは適当な移動装置の設置が記載されている(9頁10行ないし19行)ことが認められる。そして、このうち機械的方法である適当な移動装置を用いれば、搬送装置からの製品の離脱、加熱炉の製品搬入口への移動(加熱炉への搬入)を一連の作業工程として行なうことが技術的に可能であると認められる(このことは製品搬出における昇降装置8と搬送装置9との関係においても同様である。)。これに対し、引用例2記載の発明においても製品の加熱炉への搬送装置と加熱炉内の搬送装置とは別であり、製品を前者の搬送装置から後者の搬送装置に移し換えるための離脱が必要であることに変わりはなく、前掲甲第3号証の3には、「被塗装物(P)は、フィーダー(7)からコーター(8)及び供給コンベア(9)を経てウィッケット(3)内に挿入され、コンベア(2)に載せられたまま炉(1)内を通過する」(3頁右下欄9行ないし12行)旨記載されているが、この記載によれば、供給コンベアに載置されて搬送された塗装物は、供給コンベアの末端に押し出され、ウィッケット内に差し込まれるようにして、ウィッケット付コンベアに移し換えられるものと認められるから、引用例2記載の発明においても、供給コンベアによる塗装物の搬送、同コンベアからの離脱、加熱炉への塗装物の搬入が一連の作業工程として行なわれているものということができる。この事実によれば、引用例2にも、製品を搬送装置から取り外して加熱空間内に移動する構成が機械的方法による一連の作業工程として開示されているものと認めることができる。また、引用例2記載の発明において、加熱炉の出口に設けられている前記抜き取りコンベア及び反転装置は加熱された塗装物を搬送コンベアに移動する機械的方法であるから、引用例2にも、加熱空間から製品を別の搬送手段に移動する構成が機械的方法による一連の作業工程として開示されているものと認めることができる。

(d) 以上によれば、引用例2には、審決が摘示するように、搬送装置から製品を取り外して加熱空間内に移動し、搬出口からまた別の搬送手段で搬送し炉の手前に運ぶことが技術的事項として記載されていると認められる。

(e) 原告は、引用例2記載の発明の搬送コンベアが製品を加熱炉内に搬入するものでないことを理由として、同コンベアが本願発明の搬送装置9に相当することを否定するが、引用例2記載の発明の搬送コンベアは本願発明の搬送装置9の二つの機能のうち、加熱炉から搬出された製品を搬送しながら冷却乾燥させる機能を果していることは前記(b)において述べたとおりであるから、原告の上記主張は理由がない。

また、原告は、引用例2記載の発明の供給コンベアが塗装物を加熱炉内のウィッケット付コンベアに移す機能を有することを捉えて、本願発明の搬送装置9ではなく昇降装置7に相当する旨主張する。しかし、昇降装置7は本願発明の要旨とされていないだけでなく、上記供給コンベアが本願発明の搬送装置9の二つの機能のうち、製品を加熱炉の搬入口に面した位置に運ぶ機能を果していることは前記(b)において述べたとおりであるし、本願発明の昇降装置7は搬送された製品を加熱炉に移動するための付加的構成にすぎず、上記供給コンベアが製品の搬送機能のほか、上記昇降装置7のような加熱炉に製品を移動させる付加的機能を併有しているとしても、そのことの故に同コンベアが有する本願発明の搬送装置9の上記機能が否定されるものではないから、同コンベアが本願発明の搬送装置9に相当するものであることは明らかである。原告の上記主張は理由がない。

さらに、原告は、本願発明の搬送装置9はハンガー11を介して所定の間隔で製品を吊り下げて搬送する装置であるから、引用例2記載の供給コンベア及び搬送コンベアとは異なると主張するが、前記本願発明の要旨によれば、ハンガー11を介して所定の間隔で製品を吊り下げるという搬送装置9の構成は、本願発明の構成要件ではなく、実施の一態様にすぎないと認められるから、原告の上記主張は理由がない。

〈2〉  搬送装置9が加熱炉1の周囲を循環する構成について

前掲甲第2号証の3には、搬送装置9が加熱炉1の周囲を循環する構成とした点について、「製品の搬送装置は加熱炉の周囲を循環するのみで加熱炉内を通ることなく、製品のみ加熱空間を通るようにしてある。」(4頁13行ないし15行)、「製品はハンガーとともに搬送装置とは独立して加熱空間内を通過可能としたことにより、搬送装置は加熱炉の周囲を循環するのみでよく搬送装置の保守が容易であり且つ長時間の使用が可能である。」(11頁3行ないし7行)旨記載されているが、上記記載以外に搬送装置を循環する構成にした効果については何ら記載されていないことが認められる。この事実によれば、本願発明の搬送装置9による効果は、搬送装置9が加熱空間を通らない構成であることによって生じる効果であり、搬送装置9が加熱炉1の周囲を循環すること自体によって得られる効果であるとは認められない。さらに、上記記載によれば、本願発明の搬送装置9は加熱空間で製品を加熱している間は製品を搬送しないで動いており、搬送装置としての作用をしていないものであるから、搬入及び搬出の二つの機能を有する搬送装置として一体であることにする技術的必然性はないと認められる。これに対して、引用例2記載の塗装物搬入のための供給コンベアと塗装物搬出のための搬送コンベアとは別体のものであるが、いずれも加熱炉の外に設けられている点では本願発明の搬送装置9と変わるところはなく、しかも、平面上に製品を載置して送るものとして同じ形のコンベアであり、加熱炉外のコンベアとして本願発明の搬送装置9が単に搬入用と搬出用に分かれた形となったにすぎないものと認められるから、搬送装置を、引用例2記載の発明のように機能別に複数にするか、本願発明のように一つにするかは、単に加熱方法を実施するに際し、当業者が加熱装置の設置状況に応じて、適宜決定できることである。

〈3〉  したがって、引用例1記載の搬送装置であるコンベアに代えて、引用例2に記載されている「搬送装置から製品を取り外して加熱空間内に移動し、搬出口からはまた別の搬送手段で搬送し炉の手前に運ぶ」という技術を転用して、本願発明の「搬送装置9から取り外した製品を、製品搬入口3から…加熱空間2内を移動し…、加熱した製品を…製品搬出口4から搬出可能」という構成にすることは、当業者であれば容易に想到し得るところであり、かつ加熱炉への搬入、加熱炉からの搬出のため一体化された搬送装置9を加熱炉1の周囲に循環させるように構成することも当業者(前記本願発明の要旨及び審決摘示の引用例1及び2の各記載内容によれば、本願発明及び引用例1、2記載の各る。)にとって容易になし得る設計的事項であるというべきである。

(3)  以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2各記載の発明から、当業者が容易に想到できるものであり、その効果も引用例1と2に記載の発明から予測できることと認められるから、原告主張の審決の取消事由はいずれも理由がなく、審決には原告主張の違法事由はない。

4  よって、本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 押切瞳 裁判官 田中信義)

平成2年審判第20892号

審決

神奈川県横浜市保土ケ谷区東川島町82

請求人 株式会社 仲田コーテイング

東京都港区西新橋2-5-8 大場ビル

代理人弁理士 積田輝正

昭和59年特許願第112707号「樹脂コーテイング用加熱方法」拒絶査定に対する審判事件(昭和60年12月16日出願公開、特開昭60-255176)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和59年6月1日の出願であって、昭和59年7月11日付明細書と図面の記載からみて、発明の要旨は、特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものである。

金属製品の樹脂コーテイングにおいて、製品の加熱空間2およびこの加熱空間2より下方に位置する製品搬入口3、製品搬出口4を有する加熱炉1の周囲を循環する搬送装置9から取り外した製品を、製品搬入口3から上昇させて加熱空間2内を移動しつつ所定の時間所定の温度で加熱し、加熱した製品を下降して製品搬出口4から搬出可能として成ることを特徴とする樹脂コーテイング用加熱方法。

これに対して、原査定の拒絶理由に引用された本願出願前頒布された刊行物である「最新工業塗装技術」542~543ページ 昭和52年8月5日株式会社幸書房発行(以下引用例1という)には、トンネル型乾燥炉に関して床置型と山型があり、いずれの炉もコンベヤーによって被塗物が搬送されること、山型炉では出入口の開口部高さが炉内の床面よりも低い位置にあると、加熱された炉内の熱空気は外気に比べて比重が小さいので重量が軽く炉中心部に集まるため、外部へ逃げ出すことができにくいので排出熱損失が非常に小さくなることが記載され図示されている。又同じく特開昭56-97574号公報(以下引用例2という)には、ウィッケット付コンベヤを備えた塗装物乾燥炉において、ウィッケットコンベヤ以外に塗装物搬送コンベヤを備え、加熱乾燥帯域を通過した塗装物が直接該搬送コンベヤにより自体冷却しながら炉の手前に運ばれるようになっている塗装物乾燥炉が記載され、炉体内にウィッケットコンベヤがあり、その前に供給用コンベヤが、その後に抜き取りコンベヤが置かれた塗装物乾燥装置が図示されている。

本願発明と前記引用例1記載のものを対比すると、両者は、製品の樹脂コーティングであって、加熱空間とこの加熱空間より下方に位置する製品搬入口、製品搬出口を有する加熱炉へ製品を搬送して製品搬入口から上昇させて加熱空間内を移動しつつ所定の時間所定の温度で加熱し、加熱した製品を下降して製品搬出口から搬出して成る樹脂コーティング用加熱方法である点共通のものであり、ただ本願発明では、加熱炉の周囲を循環する搬送装置があり、この搬送装置から製品を取り外して加熱空間内に移動し、搬出口から搬出可能である点相違するものである。

前記相違点を検討すると、引用例2には、搬送装置から製品を取り外して加熱空間内に移動し、搬出口からは又別の搬送手段で搬送し炉の手前に運ぶ点が記載されているから、引用例1記載の搬送装置にかえて、加熱空間には、搬送装置から取り外して移動するようにすることは容易であるし、搬送装置が加熱炉の周囲を循環するものである点は設計的にできるものである。

そして本願発明の効果は、引用例1と2記載のものから予測できることである。

したがって、本願発明は、前記引用例1と2に記載されたことに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成4年2月27日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙図面1

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

別紙図面3

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例